久々に更新、籐堂志津子は初登場です。クリックすると作品紹介に飛びます。     2011/5/11 
[あ] ・浅田次郎浅倉卓弥 [い] ・飯田章石田衣良今野敏 [お] ・乙川優三郎岡嶋二人荻原浩 [か] ・角田光代河合隼雄 [き] ・川上弘美北原亜以子北村薫桐野夏生 [さ] ・佐藤多佳子 [し] ・重松清白石一文 [せ] ・瀬尾まいこ [た] ・高城のぶ子ダン・ブラウン [と]new籐堂志津子東野圭吾 [な] ・中村弦 [ぬ] ・沼田まほかる [の] ・乃南アサ [ふ] ・藤沢周平藤原正彦 [み] ・宮部みゆき [む] ・村山由佳 [や] ・矢口敦子柳田邦男 [よ] ・吉川英治 陽 信孝 [わ] ・綿矢りさ

「あ」 浅田次郎 「薔薇盗人」 新潮社
 あじさい心中、死に賃、奈落、ひなまつり、薔薇盗人の短編集。中でもリストラされた大手出版社の室長が、ふらりと温泉街に行って、そこのストリップ劇場で知り合った踊り子と、わずかに触れ合う心の様を描いた「あじさい心中」はこの歳になってこそその心の動きが理解できるような気がする。若い時ではこの作品の味わいは理解できなかっただろう。心にしみる作品群だった。
「あ」 浅倉卓弥 「4日間の奇蹟」 宝島社
 少女が弾くピアノ演奏会は老人ホーム。その慰問風景から始まる。保護者として付き添う啓輔と中学生の千織がどういう経緯で共に暮らす事になったかは「僕」の過去を思い出す形で徐々に明かされる。次に移動していく先は、山の上の医療施設。そこで、運命的な出会いが待っている。 魅力的な作品である。そして、人間の生と死など、いろいろと考えさせられ、これが処女作?と思わせた。ミステリー大賞受賞作でもある。 「生物学的にまったく無関係な他の個体のためにも己の快不快の原則を裏切ることができるのは人間だけではないか」「己の快だけを追求しないこと、それが一番人間らしいのかもしれない」
「い」 石田衣良  「4teen フォーティーン」 新潮文庫
 冒頭からショッキングな内容に、毒気に当てられてしまった。娘が置いていった本を何気なく読み始めたのだが、その内容は現代の中学生がこんな世界で生きているのかと思うと、恐ろしいやら、情けないやら。私たちの世代にはとても考えられないことを、しかも、こうして公に発表されていることにショックを受けた。 難病と闘う友人がいる病院へ見舞いに行く3人の中学生の会話からして、これが普通?とおばさんにはめまいがするような内容。そして、14歳の誕生日プレゼントに彼らが考え出したことは…。悪に染まりそうな仲間を体を張って引き戻そうとする話も感動的。軽口をたたく間柄でも、本気になれば真の友情で戦うことが出来るのだ。心の底には人としての理性があった。親に内緒で都会の真ん中で野宿してみたり、都会に住む若者の冒険心はこんな形でしか発揮できないのかと思うと、ちょっと複雑。
「い」 飯田 章 「迪子とその夫」  草場書房 
 「いつごろからか弘志は、迪子といっしょに歩くとき、彼女よりも決まって半歩ほど遅れて歩いている自分に気づくようになった。」この冒頭の書き出しで、迪子とその夫の関係が自分たちに似ていると親近感を持ってしまった。何事につけ前向きで向上心が高く、家事より勉学に励む妻の姿にどこか自分を投影した。しかし、私には同居する母もいないし、子どもは3人、夫は弘志のようにおとなしく黙って好きにさせてくれることはない。  夫婦の性格が違うことが上手く表現されていて、生活の中で男と女がズレを感じる部分を平易な言葉で語りかけてくる。  夫婦が長くその生活を続けるための知恵は、日常の何気ない言葉の一つ一つから大切に育むものだと思う。不協和音を早く見つけ、調和を目指して、価値観を同じに保つ努力なくして、仲の良い共白髪はなり得ない。
「い」 今野 敏 「朱夏」  幻冬社
 刑事の妻が誘拐され、脅迫状もなく、何故妻が失踪したか思い至らない夫だが、普段の妻からは考えられないただ事ならない予感で、自力の捜索を開始する。強力な友人の助けを得て、可能な限りの可能性の糸を少しずつ手繰り寄せていく過程がドキドキする。この情景はどこかで見たような。サスペンスにはよくある設定だが、家族の絆を改めて考えさせられる話。誘拐を試みて、警察に鉄拳を与えようとした、自分勝手な若者との対峙も、熟年刑事がその表情を敏感に感じ取るところなど、読み応えがある作品。
「い」 今野 敏 「虚構の殺人者」 ハルキ文庫 
 芸能界の華やかな集まりの最中に起きた殺人事件。殺されたのは有名プロデューサーの一人。自殺か、他殺か、東京エリア分署の安積警部補は上司や部下の動きを観察しながら、一人ひとりの個性を描いていく。そして、事件は次第に仕事にからんだ利害関係を浮き彫りに。緊迫した現場の様子を写す筆致が軽快で、登場人物の個性もそれぞれにうまく表されていて、飽きさせない本だった
「お」 岡嶋二人 「クラインの壷」  講談社
 岡嶋二人の2作目。前作が面白かったので、続いて読んでみる。  コンピューターゲームの原作者がそれを実際に体感できるというシステムの開発に関わるという今時の話が展開される。不思議な世界を体験し、一緒に参加する人間もいて現実味を帯びてくるが、どこからどこまでが現実で、どこかから異次元の世界みたいな不思議な作品。読んだ後で狐につままれたような気分になった。 
「お」 岡嶋二人 「どんなに上手に隠れても」  講談社
 徳山諄一と井上泉のコンビによる作品。新人歌手の誘拐が予告されて事件が始まる。歌手のマネージャー西山玲子はその歌手結城ちはるを探し出そうと、必死に事件の解決に奔走する。広告業界の思惑が渦巻く事件の結末は・・・。 
「お」 荻原 浩 「明日の記憶」  光文社
 第18回山本周五郎賞受賞、本屋大賞2位の傑作。  若年性アルツハイマーと診断された弱冠50歳の営業マンが現役を退き徐々に忍び寄る病と葛藤しながらの日々。まるで自分の中の何かを問いただすように、自分の未来に来るかもしれない不安も感じながら読み進んだ。その時自分はどうするだろうか?家族は?他人事ではない胸の鼓動を今も押さえることが出来ない。最後の場面でついに迎えにきた妻の顔を忘れた瞬間を描いているが、自分がもし記憶をなくしていくことがあるとしたら、こんな風に始まるのかもしれないと、身につまされて寂しさが押し寄せてきた。自分だけの力ではどうしようもない運命に身を委ねるしかない弱い人の一生。この人と家族の闘いは今始まったばかりだ。 
「お」 乙川優三郎 「闇の華たち」  文芸春秋
 花映る、男の縁、悪名、笹の雪、冬の華など6つの短編集。江戸の後期、改革派が現われる頃の男女の心の機微をとても情景豊かに映し出して見事。
 親が子を思う気持ちや病人を思いやる医者の気持ちなど、人情をこれほどに描ける才に感動。情景が鮮やかに浮かび上がる。花や雪や櫛に託す人の心。それらに動かされる人の感情。心にしみる作品ばかり。オール讀物新人賞、時代小説大賞、山本周五郎賞、直木賞などを取っている。他の作品も是非読んでみたい。
「お」 乙川優三郎 「生きる」 文芸春秋
 表題の「生きる」以下3篇。「安穏河原」「早梅記」下級武士の暮らしぶりがよく分かる。封建制度の下、藩主が死んだら殉死するのが一般的だった時代、先を見越して重鎮に思い留めさせた家老の計らいを忠実に守ろうとして、その後家中から反目され、辛い暮らしを送らざるを得なくなった一人の武士。婿や息子を失い。娘まで離れて行ってしまい、生きることに何の意味も持てなくなる過程が胸を打つ。生きるということの意味を問い詰めてくる。やりきれない人生にも、一筋の灯りを見つけようとする筆者の心情に共感。
「か」 角田光代  「キット゛ナッフ゜・ツアー」 新潮社
 実の父親に誘拐されたという感覚かからして変である。フツーの女の子の感覚ではない。この不思議な父と娘は母親から逃れるように旅行に出る。着替えと少しの日用品を買い込み安い旅館を探して、普段接することの少ない父親との二人旅。どのように向き合えばいいのか計りかねる小学校5年生の女の子が、なんとも情けない父親を見つめながら、それでも心の底で愛すべき点を見つけて、別れるまでの数日間、出会った人々や風景を語りながら、家族とは何か、親子関係を作るものは何かを伝えてくる。
「か」 角田光代  「対岸の彼女」 文芸春秋
 3歳の子供を持つ主婦小夜子とキャリアウーマンの葵との出会いは雇い主との面接という形で始まった。同じ大学の卒業生という共通の話題から親しみを覚え小さな会社ながら自分の働く場所を得て少しずつ主婦から社会人として変化していく小夜子と、葵の過去を交錯しながら話は展開する。人が持つ過去の中に自分と同じ感覚を覚え次第に心を寄せていく課程が小気味良いテンポで進められ、今まで角田ワールドには踏み込めないと感じていた私の評価を変えた作品。 
「か」 河合隼雄 「泣き虫ハアちゃん」  新潮社
 ハアちゃんは6人兄弟の5番目の男の子、ちょっぴり弱虫なところもあるけど気持ちの優しい子。強い兄貴たちに囲まれて、いじめられたり、鍛えられたり。父や母との交流などを自然体で描いている。丹波篠山というなんとも身近な場所が舞台なのも親しみを感じる。今より少し前の時代、素朴な小学生の心情がほほえましい。
「か」 川上弘美 「センセイの鞄」  平凡社
 一人の女性が卒業後何年も経ち、その名前も思い出せないまま再会した恩師をとりあえず「センセイ」と呼ぶ形で飲み屋での気の置けない友人になり、そして、なくてはならない人になるまでの心の動きが実に巧に描かれている。月子とセンセイがなぜ惹かれあったか、その響き合うような二人の性格を追っていく内にあらゆる場面で読者は納得するだろう。愛情というのは育つものだと、つくづく教えられる。
「き」 北原亜以子 「妻恋坂」 文芸春秋
 表題のほか7編の短編集。江戸の町衆の生活が鮮やかに蘇る。男と女の心の機微がとても情感豊かに伝ってきて、じ〜んとする。この人の世界が好き。
「き」 北村薫 「鷺と雪」 文芸春秋 
 表題のほか2編、全て主人公は同一で話がつながっている。まだ華族が存在していた頃の話。庶民とは少しかけ離れた上流階級のお嬢様の周りに起こる事件を家庭教師的な運転手のベッキーさん(日本人)のよきアドバイスと友人たちの難問を解決しながら、自身の成長を見るような筋立てになっている。
「『−善く敗るる者は亡びず』ベッキーさんの引いた『漢書』の一節だ。帝都のうちとは、そしてまた新年の宴の喧騒が間近にあるとは思えぬ静けさが、部屋に降りた。ベッキーさんは言った。『はい、わたくしは、人間の善き知恵を信じます。』勝久様は、まるで護符をいただいたかのような表情で、そっと頷いた。」
2.26事件の前夜の事である。関係者の一人ならありうるであろう情景を、目の前で見ているかのような気になった。想像力こそ作家に必要な要素なのだ。
「き」 桐野夏生 「IN」 集英社 
 鈴木タマキが他の作家の小説に踏み込んだ内容で執筆しようとしている事態を、編集者との愛憎やその作品を探るうちに明るみに出てくる事実など、複雑に絡んで話が進む。疑問はタマキが夫を持つ身なのに、家族の影が全く出てこないこと。仕事部屋と称して別に部屋を借りたりしているが、家庭の臭いが伝わらない。かといって別居しているわけでもなさそうだし。設定に首をかしげる部分があり、スンナリ感情移入が出来なかった。人気の本ということで、借りるまで長く待たされた割には・・・ウ〜ム(^_^.)
「さ」 佐藤多佳子 「一瞬の風になれ」  講談社
 サッカーでは兄に叶わないと思い続けた高校生の新二は、何事にもやる気のなさそうな友人 連 と陸上部に入ることになる。走ることにかけては他に負けない二人だが、天性のものを持つ連の走る姿に憧れを感じながら、リレーの選手に選ばれ、走ることだけに一生懸命になる一瞬の緊張や仲間との交流など、息子も高校生のときに陸上部に入っていたので、こんな様子だったのかなと、私の知らない若い息吹を感じながら読み進んだ。読後感もすがすがしい。
「し」 重松清 「かあちゃん」  講談社
 ヒロシとその母の関係を主軸に、 親子がたどった道筋の先に、多くの人に影響を与えた人生が浮かび上がってくる。夫の犯した過ちを、死でもって購うことが出来ないと感じたかあちゃんの生き方が壮絶だ。彼女の心情を理解できる人は少ないかもしれない。「自分が幸せになってはいけない」そんな人生があるだろうか。20年間もその姿勢を貫き謝罪し続けた。
 しかし、その姿勢がある人の生き方に大きな影響を与え、「覚えておく」という行為の重要性を多くの人に気づかせた。人には忘れてはいけないことがあるのだ。それは自分の犯した過ちの場合もあるし、大切な人の場合もあるだろう。
 色々な形の心の葛藤を描き、それぞれが「忘れない」と決めて行き着くところへもっていく。かあちゃんの生き方からすべてつながってくる構成のおもしろさ。途中で何度も涙をぬぐった、力のある作品。
「し」 白石一文 「どれくらいの愛情」  文春文庫
 短編4つ。この著者の作品は2冊目。今度は愛情の表し方に不思議な魅力を感じながら読み進んだ。男と女の愛情を表現するのに、こんな方法もあるのかと思わせる箇所が随所にあって、短編とはいえ、読み応えがあった。「どれくらいの愛情」では背が低くてもてないと思い込み、別れた恋人への想いを引きずっている主人公に、先生といわれる人が語る言葉に「 自分だけの才能を見つけるために、まず自分にないものを持っている人を羨まないこと」とか「絶望とは希望の種のようなもの」とあり、共感を感じた。
「し」 白石一文 「ほかならぬ人へ」  講談社
 短編2編。表題の作品は主人公明生がなずなという妻の不倫に振り回され、自分も職場に癒しの相手を見つけて、結局真の相手は別に居たという話。この相手の女性が数年で肺ガンを再発し、死んでしまう。もう一つの「かけがえのない人へ」も婚約者との結婚を間近に控えて、元カレとよりを戻し、この男が自分にとってかけがえのない人だと思ったとき、その男はどこかへ消えてしまう。どちらもハッピーエンドにはならないのだが、その過程で現代の世相が反映されているのかと、暗澹たる気持ちになった。これが今の若者?婚約者を裏切る行為を飄々と描いて、主人公に心の葛藤がないのが悲しい。性の描写もこれをラジオなどで朗読するなどもってのほか。子どもたちに聞かせることなど出来ない。石田衣良の作品にも度肝を抜かれたが、これが山本周五郎賞受賞した作家とは・・・世の中の評価も変わったものだ。
「せ」 瀬尾 まいこ 「幸福な食卓」  講談社
 「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」こんな不可思議な会話から始まるこの物語。突然仕事を辞め、受験勉強を始める父や、高校までずっと天才とまで言われてきた兄が大学に行く理由が見つからないと農業の道に進んだり、おかしな家族と一緒にいてそれでも癒されている自分がいる。別居している母は毎日食事を届けに来て、家族がみな程よい距離を保ちながら、心地よく過ごしている。  佐和子が学級委員としてクラスをまとめることができずに困っているとき、ボーイフレンドの大浦君のアドバイスが功を奏して、一件落着。中学時代の塾からの付き合いが高校まで続き、暖めてきた二人の恋が2年のクリスマスを迎えるとき、予想もしない出来事が。打ちのめされる佐和子だが、最悪だと思っていた兄の恋人・小林ヨシコに手作りのシュークリームで励まされる場面など、さりげない会話の中にちりばめられた暖かい人の心にほっとする作品だった。
「た」 高城のぶ子 「蔦燃」 講談社
 冒頭の彗星の話題が今から語られる昔の出来事を象徴している。私、真砂子は弁護士の夫と新婚2ヶ月の幸せな生活を、レンガの垣根に蔦がびっしりとはっている古い家で始めたばかりだった。そこへ現れた夫とは腹違いの弟、末次郎。彼のひねくれた感覚を嫌悪しながら、いつしかその境遇に思いを寄せる内に静かに進行する愛。その結末が逢瀬の時に起きた事故で真砂子は流産、そして、二人の永遠の別れとなる。末次郎が真砂子を奪う事を避け、自らの命を絶った後も女は淡々と幸せな生活を続けていく。その過去を語る物語。愛する人を失っても、女は強くしたたかに生きていく。
「た」 高城のぶ子 「億夜」 講談社
 物語は久里布竹雄が赴任先の福岡で仕事のついでに立ち寄った骨董屋をのぞく場面から始まる。そこから、彼の今までの人生を変えてしまう心の動き。再びめぐってきたかつての恋人との出会い、その夫の死を悟った言葉や二人の男と女の間に芽生える不思議な感情。それらを作者は多彩な表現を駆使して私の胸にぐいぐい迫る。かつて25年も昔、妻だった女が自分と弟の間でどうしようもない愛に葛藤し、その結果弟は死を選んだ。自分の前から姿を消し、故郷に帰った女は、そこで自分の弟光也に似た男と新しい人生を始めていたのだ。人生を前向きにひたすら生きつづけた男が家族との絆を絶たれた時に、自分の新しい生き方を見つけることにもなったのだ。作家とは一つの情景を十の言葉で表すことが出来ると言うが、まさしくそれを感じさせてくれる作品だと思う。
「だ」 ダン・ブラウン 「ダ・ビンチコード」上下巻  角川書店
 最近の私には珍しく外国の著書である。娘が今流行中だからと置いていったので読んでみると意外におもしろい。  モナ・リザに隠された意味深なダイイングメッセージを解き明かすために突然巻き込まれたラングドンはソフィーという女性捜査官との不思議な逃避行をすることになる。キリスト教の歴史を垣間見たり、ルーブル皮切りにフランスからイギリスへと話は展開する。危険な目にあいながら二人の前に少しずつなぞが解けて来るかに見えて、黒幕の姿が突然・・・。 
「と」 籐堂志津子 「情夫」 幻冬舎
 表題の他「おとうと」「ランチ・タイム」「男遊び」「エスコート」の5編が収められている。40代を過ぎた中年に入ろうとする独身の女性が若いころの男遊びを回顧して、その感情をリアルに表現しているのが興味深くて、感情移入は出来ないが、主人公の心の動きが手に取るように分かるのがすごいと思う。自分の日記もこんな風にリアルに描写出来たら、どんなに面白いだろう。
「と」 東野圭吾 「幻夜」 集英社
 雅也の父が死んだ日、あの大震災が起きる。その後に起きた忌まわしい出来事と、それを見ていた少女との出会いが彼のその後の人生を大きく変えることになる。新開美冬ーそれが彼女の名だ。彼女は自分の野望のために男を虜にして、どんどん高みへのぼりつめる。その陰で策謀するのが雅也の役目。知らず知らずの内に彼女の策略にのりながらも、美冬を守ろうとする男が最後に自分が利用されただけと知って…。
 ずっと美冬を追いながら、影の男を突き止めた刑事と雅也との出会いになる最後の章。ここまでは流れが自然だったのに、雅也が美冬に裏切られたと知って今までの清算をしようとしているなんて彼にしか分からない心の動きのはず。それを刑事が知り尽くしたかのように最後の場面に登場するのはいかにも不自然。ここは雅也の報復を遂げさせたかったなというのが私の正直な感想。
「な」 中村弦 「天使の歩廊」 新潮社
 不思議な建築家・笠井泉二の作る建物は、不思議な魅力を放っていた。
友人として、彼に親しみを感じた矢向丈明が、変人とも思える泉二を支え、彼の建物にまつわって起こる不思議な話を集める図式になっている。
建物がそこに住む人にとって、どんな意味を持つかを考えさせてくれた。
決してありえない建物もあるだろうが、作者の視点は、そこに住む人が望む心の安らぎを追及している。
温かく人を見つめる目を感じさせる短編集。 
「ぬ」 沼田まほかる 「9月が永遠に続けば」  新潮社
 ホラーサスペンス大賞受賞作品。読者を飽きさせないでぐいぐい引き込んでいく。その描写の面白さに時間を忘れて一気に読み進んだ。  突然消えた息子の居場所を探す母の旅が始まる。別れた夫の新しい娘・冬子が現れたり、息子の担任が意味ありげに出てきたり、自分の恋人が実は冬子と付き合っていたことも徐々に明るみに出てくる。息子が冬子と会っていたらしいことも影を落とす。その間、恋人が変死を遂げて、ますます闇が広がっていく。不幸な生い立ちの母(亜沙実と冬子)の過去が明かされていくうちに、複雑に絡み合った糸が徐々にほぐされ、気の抜けるような結末に。  人の一生の中で起こりえないような事件が次々と身の回りで起き過ぎ・・・と作為的な部分が多く、すんなり受け入れ難い点も多々あるが、描写は実におもしろい。人の心の中をきめ細かに表しているので、人を想い、想うがゆえに、このような行為に及んだのかと納得させられるところもある。しかし、結局著者の伝えたいことは何だったのだろう?
「の」 乃南アサ 「好きだけど嫌い」 幻冬社
 エッセイ集。女性の感性であらゆる場面の感想が書かれている。「悪口のスリル」女性特有のおしゃべりの現場をうまく表現しているなと感心する。「言い草」現代人にありがちな状況を切り口鋭く批評する。同感同感…心ひそかに拍手したい。
「は」 藤沢周平 「驟り雨」 埼玉福祉会
 藤沢周平の作品は初めてです。映画では最近良いものが出ているので、この著者に関心がありました。表題のほか「贈り物」「うしろ姿」「ちきしょう!」「人殺し」の5作の短編集。人情の機微をうまく表現していて、さすが、藤沢周平です。期待を裏切りませんでした。
 恵まれない立場の市井の人々に、優しい目を向けた著者の温かい心が伝ってきます。人を信じられずに寂しい人生を送っている人に、読んでもらいたいものです。
「ふ」 藤原正彦 「国家の品格」 新潮社
 話題になった本。日本人なら一度は読んでおいた方がいい。忘れられた日本人の特性が蘇る。
情緒と形を大事と説く項では、人間のスケールにも関わると説く。日本人特有の情緒的感性が今こそ世界に示される時だ。しかし、また、理論で攻めない国民性が欠点となり、強気で示せない。なんというジレンマ。しかし、日本のこの特質を国民の一人ひとりが自覚して、独立国家としての意識を向上させ、国民性を高め、成熟させねばならない。
「み」 宮部みゆき「初ものがたり」 新潮文庫 
 岡引の茂七の預かる一帯で、親も身よりもなく、道端で暮らす貧しい子供たちが神社の供物を食べて死ぬという事件が起きる。その犯人が頭のおかしい大店の娘であることがわかり、決着のつけ方が小気味いい。現代なら本人の精神障害による犯行ということで無罪放免というところだろうが、江戸時代を背景にしているとはいえ、こうした裁きが痛快。まさに下町の大岡さま。 
「み」 宮部 みゆき 「取り残されて」  文春文庫
 表題のほか6篇収録。不思議な話ばかりである。対外離脱は臨死体験の人にはあると聞くが、どのような感覚かをまさに味わった人のごとく書かれている。このように色々と創造できる作者の力量に感心するばかり。ミステリーだから、種は読んでのお楽しみ。
「み」 宮部 みゆき 「ぼんくら 上・下」 講談社文庫
 鉄瓶長屋の住人をめぐって起こる事件の数々。井筒の旦那と呼ばれる本所深川方の同心平四郎がその気もないままに真相に迫っっていく。人の良いお徳や、佐吉、不思議な魅力の弓之助、おでこやみすずと登場人物の顔が見えるよう。平四郎の妻も可愛く描かれている。  ー「お前もよくまあ俺のような怠惰で無能な男のところに嫁いできたものだ。」細君は目を見張った。「突然に何をおっしゃるかと思えば。」そして、急に生き生きした顔になって膝を乗り出して「そんなにも私をねぎらってくださるものならば、新しい着物の一枚も仕立ててくださりましょうか。」平四郎は黙って飯を食った。細君も黙って給仕をした。飯をしまって茶を飲んでいると膳を下げた細君が台所で声を忍ばせて笑っているのが聞こえてきた。それで平四郎は少しだけ笑った。細君は平四郎に聞こえるように笑っているのだった(後略)ーこんな場面を想像するだけでほのぼのとした気持ちになった。
「む」 村山由佳「星々の舟」 文芸春秋
 先妻の子供・貢と後妻の連れ子・沙恵とは傍目にもうらやましい仲の良い兄妹として育つ。が、兄妹以上の感情をお互いに抱いていた。事情があって家を離れた貢は母の死を知らされ長年寄りつかなかった実家に戻ってくる。そこから物語りは昔へとさかのぼり、末娘の美希や長兄の家庭の事情まで浮き彫りになってくる。そして、ついに貢と沙恵に過酷な事実が突きつけられることに。
「む」 村山由佳 「天使の卵」  集英社
 恋をした相手がガールフレンドの姉だったという悲運、勇太と春妃の恋は妹の夏妃には秘密にして深く進行して行く。誰にも止められない、若い勇太の一途な恋。それに向き合うようになった春妃。しかし、妹への心の重荷に耐えかねて…恋は純粋なほど、傷つきやすいものだ。
「や」 矢口敦子 「VS」 幻冬社
 死んだ息子を巡る育ての親と、かつて卵子を提供した女との闘い。殺人の汚名を着せられたと信じる木綿子は探偵を雇い、一家4人惨殺の真相を探ろうとする。一方育ての親絹恵はおろおろとその成り行きを見守るばかり。次第に明らかになっていく息子恵壱の交友関係から、彼の書き残したメモ「VS」の意味が見えてくる。自分の出生に一抹の不安を持った少年が起こした事件の根底にあったのは、自分の生に自信を持てない若者の苦悩だった。
スリル満点の展開とテンポの良さでぐいぐい読ませるが、最後の場面で木綿子が銃を撃つが、その銃声で付近の住人が警察を呼ばなかったのは不自然かと・・・。ほんとに小さな疑問だが(^_^.)
「や」 柳田邦男 「壊れる日本人」 新潮社
 ケータイ・ネット依存症への告別。かねてから、自身がネットに生活の多くを依存している現状に危惧を抱いていたから、「壊れつつある日本人」の中の一人として、多くの反省を込めて読んだ。
「よ」 吉川英治「三国志」第1巻 講談社
 なんとなく中国の大抒情詩を読みたくなって、手に取ったら、この先10巻はあるらしい・・・。気が遠くなりそうだが、時間も出来たことだし、読み始めると結構おもしろい。次々出てくる人物を頭の中で整理するのが難問だが、昔の人々の生活を想像しながら読み進んでみることにする。第一巻は主人公劉玄徳が母を故郷に残して武人として旅立つ背景が描かれる。そこに彼と固く結ばれる二人の強い味方が現れ、戦を経て徐々に混乱の世の中から頭角をあらわしてくる彼らの活躍が今後の楽しみだ。 
「よ」 陽 信孝 「八重子のハミング」 陽 信孝 小学館
 自身ががんの宣告を受け、手術、リハビリに病と闘っているときに看護している妻の様子が変だと気づく。アルツハイマーの不安と絶望。そうした病を抱えた家族の苦労もさることながら、今まで自分を献身的に支えてくれた愛する人を温かく見守る心が全編を貫いている。31文字の歌は全て妻に捧げる愛の賛歌だ。この病を隠すことなくオープンにすることの難しさ。作者の奮闘が自分と妻の命を奇跡的に救っているようだ。 
「わ」 綿矢りさ 「蹴りたい背中」 河出書房新社
 若い感性ゆえに、私の世代では捉えにくい個所が多々あった。このような関係で男友達の背中を蹴るっ女子高生。相手を呼び捨てになどすることさえなかった私たちである。同級生の男子と口をきくのもどきどきしていた純なわが青春時代。だからといって良き時代とばかりは言えないが。私も高校3年の時、この主人公と同じようにクラスで相棒がいなくてひとりぼっちだった苦い経験がる。そのころのことを思い出し、胸がキュンとなった。時代は違っても若者の思いは似たものかもしれない。

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